犬山紙子の
文学グルメでちょこっとおこもりステイ【インタビュー】
何気ない日常のさなかに本を開けば、時間も場所も超えた旅が体験できます。本の中に出てくるグルメは、より一層物語を濃厚なものにしてくれる重要な存在。エッセイスト犬山紙子さんに、おすすめ本と登場するグルメを伺い、アレンジメニューを楽しんでもらいました。
Photo/RYO HANABUSA Hair&Make/TANAKA FUMIAKI Text/MAYU SHINOHARA・YASUFUMI SHINTAKU(Tokyo Pistol Co., Ltd.)物語の舞台に想いを馳せながらの一杯は格別
──犬山さんは、どのようなご旅行がお好きなのですか?
国内でも海外でも「珍スポット」に行くのが好きなんです。例えば名古屋の犬山市にある桃太郎神社には超B級な桃太郎のオブジェが並んでいて。不思議ですよね。旅に行くならその場所でしか見られないものが見たいんです。有名な観光地もいいけれど、珍しいものや、地元の人の生活の延長線上にありそうな食堂に、その土地ならではの魅力を感じます。でも、今はあまり旅に出られないので、家の中でも旅気分になれるようなアイテムを揃えたりして気持ちを盛り上げてます。
──素敵ですね! 旅気分に浸るために、どんな工夫をされているのでしょうか?
旅先で聴くような音楽をかけながら小説や漫画などで別世界に。なので旅に出る本だと最高で、さらに言えばそこに登場する料理が美味しそうだったら言うことなしです。
──旅を感じられる本として絲山秋子さんの『逃亡くそたわけ』をご紹介いただきました。
『逃亡くそたわけ』の主人公は「精神病棟から逃亡してきた人」なんですけど、この設定って非日常的ですよね。主人公の考えは自分には理解できないようなことなんじゃないかな、となんとなく感じてしまうのですが、一度読んでみると彼女の逃亡生活のきっかけは私が旅に出る時とさほどズレがない。名所を巡ったり、他愛もない会話が続いたりする中でも食についての描写が印象的で、久しぶりのとんかつに大喜びしたり、なごやんとお互いの郷土料理について自慢をしたり、はたまた畑で野菜を盗んで食べたり、と。そんな食のエピソードの数々は他人事になりがちなテーマを、血の通ったすごく身近なことのように感じさせてくれたんです。
──作品の舞台である土地に想いを馳せることができるわけですね。
絲山さんの本には、都会から地方に移って暮らしている登場人物がたびたび登場する印象があるので、読むと違う土地に想いを馳せられる感覚があります。あとは新幹線に乗る前に書店で買うことが多いんです。彼女の作品は読めば絶対に面白いので、駅の書店でサッと買っても間違いない。そういったことからも旅をイメージしてしまうのかもしれないですね。出張や旅のお供に本を読みつつお酒を飲んで、その土地のものを食べるのが大好きなので、実家の仙台に帰る時には、新幹線の中でホヤの干物を肴にお酒を飲むのが定番でした(笑)。
──旅はもちろん、食べ物やお酒のお話をされている時がとても嬉しそうです。
食べること、お酒を飲むこと、旅に行くこと、全て大好きです。今は子育て中なので、お酒はもちろん、旅やごはんをゆっくり味わう喜びから離れがちなのですが……。だからこそ、そういう本やエッセイを読むと、とても沁みます。読書をすれば色々なところに行けた気分になれるのがいいところです。
犬山 紙子(いぬやま かみこ)
イラストエッセイスト。トホホな生態を持つ美女たちを描いた『負け美女 ルックスが仇になる』(マガジンハウス)でデビュー。『言ってはいけないクソバイス』(ポプラ社)、『マウンティング女子の世界:女は笑顔で殴りあう』(筑摩書房、瀧波ユカリと共著)など著書多数。『Domani』(小学館)、『SPA!』(扶桑社)、『anan』(マガジンハウス)、『文學界』(文藝春秋)などにも連載を持ち、テレビやラジオなどにコメンテーターとしても出演中。近著は『 私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)。