知れば酒がもっと旨くなる!
日本酒事始

日本酒は米と水を原料に、微生物の働きを利用して造られるアルコール飲料です。重要な成分や割合などから“日本酒の造り方”を詳しく学んでいけば、日本酒が美味しい理由や、味の違いが見えてくるはず。

Illustration/TOMOYUKI OKAMOTO

日本酒ができるまで

精米から出荷まで、少なくとも約3カ月要するという、日本酒の造り方を、今回は8つの工程に分けて見ていきましょう。

①精米

◆精米(せいまい)とは
日本酒造りには、「山田錦」「五百万石」「美山錦」など、日本酒を造るために品種改良された「酒造好適米」が多く使用されます。一般的な食用米と比べて、大粒である・心白(米の中央にある白色不透明な部分)がある・タンパク質や脂肪が少ない・吸水率がよい・外硬内軟に富むなどの特徴があります。まず、精米では日本酒の香味のバランスを崩す原因にもなる、原料の玄米の外側を削ります。雑味の少ない日本酒を造るには、原料米をかなり削る必要があるので、大粒であることが理想なのです。また精米後の米は、摩擦によって熱を帯び不安定な状態なので、数週間、冷暗所で保管します。

◆精米歩合(せいまいぶあい)について
玄米を削り、残った部分の割合を「精米歩合」といいます。この歩合で、日本酒の種類が大きく分類されます。
・50%以下:純米大吟醸酒/大吟醸酒
・60%以下:純米吟醸酒/吟醸酒など
・70%以下:純米酒/本醸造酒など
※71%以上のものは普通酒(レギュラー酒)と呼ばれます。純米酒に関しては、精米歩合71%以上のものもあります。
日本酒のラベルには、精米歩合が記載されているので、購入する時に見てみましょう。米をたくさん削ると、大量の米で少量の日本酒を造ることになるので、原価が高くなります。

②洗米・浸漬

◆洗米(せんまい)とは
精米後に、米の表面に残っている糠(ぬか)や米くずを洗い流す工程。特に大吟醸酒や吟醸酒を造るために40%以上削った米は、細心の注意を払わないと酒の出来を左右するので、手洗いする蔵元も少なくありません。真冬に冷たい水を使うことが多いので、とても過酷な作業です。また、洗米時に米が摩耗してしまうと、その段階から吸水が進んでしまい、次の工程に影響が出ます。

◆浸漬(しんせき)とは
食用米を炊く時と同様、米に水を吸わせる必要があります。米の品種や、その年の米の出来具合、精米歩合、その日の天候・気温・湿度・水温など常に条件が異なり、蔵の中では熟練の職人がストップウォッチを片手に、米に吸水させている姿を見かけます。浸漬用の水温は10~15度が一般的で、低めの水温で吸水率をコントロールする場合もあります。また浸漬の後は、余分な水分を切る作業(水切り)を行います。洗米・浸漬・水切りは、工程のなかで地味な作業ですが、ここで失敗したらよい酒にならないので、とても重要なのです。

◆水について
日本酒の約80%は水であり、軟水・硬水など水質も香味に影響します。そのため、日本酒蔵は昔から酒造りに適した水に恵まれた場所にあります。

③蒸し

◆蒸しとは
日本酒造りに使う米は、“炊く”のではなく“蒸し”ます。蒸気で加熱することにより、生の米に含まれているデンプンをアルファ化(糊化)させて、微生物である麹菌の糖化作用を受けやすくするためです。蒸している途中で「ひねり餅」と呼ばれる棒状の餅を作り、状態を確かめます。工程の前半戦の山場でもあり、手ざわり(さばけ)がよく、外側が硬く内側がやわらかい蒸米になるのが理想です。

◆蒸しに使う道具
昔ながらの造りを行う蔵では、甑(こしき)という杉材で造られた深く大きな桶を使用して米を蒸します。蒸籠(せいろ)でもち米を蒸す時と同じように、沸騰した水が蒸気となり熱を加えます。近年は「自動連続蒸米機」を導入している蔵も多くなりました。

◆蒸米の放冷
蒸された米は、麹/酒母(しゅぼ)/掛米(かけまい)用に分けられ、その比率は、2~3割:1割:7~8割です(麹・酒母・掛米については後の工程で説明)。アツアツの蒸米は、それぞれの用途に合わせた温度まで冷まされます。外気で自然冷却する方法や、ベルトコンベアを利用してファンで冷やす方法もあり、手作業で米を運んだり広げたりするのはかなり重労働なので、蔵人が協力して行います。

④製麹

◆製麹とは
麹菌(麹カビ)を繁殖させた米を麹(こうじ)と呼びます。昔から「一麹、二酛(もと)、三造り」といわれており、製麹(せいぎく)は日本酒造りで最も重要な工程といっても過言ではありません。また、純米酒や吟醸酒、本醸造酒などの特定名称酒には、米全体の15%以上の麹を使用することが義務付けられています。

◆なぜ麹が重要なの?
アルコール発酵には、糖分(ブドウ糖)が必要です。麹は、米に多く含まれるデンプンをブドウ糖に分解させる酵素(糖化酵素)を作り出すために必要なのです。ブドウが原料のワインは、原料にブドウ糖が十分含まれているので、麹は必要ないのです。

◆製麹の工程
“蒸した米にカビを繁殖させる作業”なので、ある程度の湿度がある高温な場所で行います。製麹用の部屋を「麹室(こうじむろ)」と呼び、寒いなか行われる日本酒造りで、唯一暑い場所です(約35度)。蒸された米を麹室に運び込む「引き込み」に始まり、「床もみ」「切り返し」「盛り」「仲仕事」「仕舞仕事」「出麹(でこうじ)」と呼ばれる作業を経て、およそ48時間(2日間)かけて麹が完成します。各作業に大切なポイントがあり、どんな酒質の日本酒を造りたいのかによって、作る麹のタイプも変わります。

⑤酒母造り

◆酒母(しゅぼ)造りとは
ブドウ糖を分解して、アルコールとガスを生成する微生物である「酵母」を培養する工程。酒母は、その名が示すように“お酒の母”となる液体で、「酛(もと)」とも呼ばれます。日本酒を造る時はタンクに蓋をせず、開放された環境で行わなければならないので、不要な微生物(日本酒にとっての雑菌)も入り込んできます。日本酒用の「酵母」は酸性に強く、多くの雑菌は酸性に弱いので、「乳酸」という微生物を取り込んで酒母を造ります。その取り込み方で、大きく2つの酒母に分けられます。

◆生酛(きもと)系酒母
蔵内にいる乳酸菌を取り込み、繁殖させて造る酒母です。微生物の存在を確認できなかった昔から行われている手法で、気温5度前後という低温のなか、3週間程度の育成期間が必要で、手間ひまと技術が要されます。また生酛系の酒は、濃醇な酒質が得られます。

◆速醸(そくじょう)系酒母
蒸した米・麹・水のほか、液体状の「醸造用乳酸」を加え、素早く醸造タンク内を酸性の状態にする手法で造る酒母です。酒母の育成期間が短く、労力やエネルギーなどさまざまなコストが抑えられます。また速醸系の酒は、淡麗な酒質が得られます。

⑥醪造り(仕込み)

◆醪(もろみ)とは
日本酒の醪は、酵母が培養された酒母に蒸米・麹・水を投入し、発酵が進んでいる液体。醪造りで使用する蒸米を「掛米(かけまい)」といい、一度の仕込みで使用する米の6~7割は掛米です。日本酒の醪造りでは「並行複発酵」という独特な発酵が起こっています。ちなみに、ワインは「単発酵」、ビールは「単行複発酵」によりアルコール飲料となります。

◆3段仕込み
酒母に大量の水や蒸米を加えると、酸性の状態が一気に失われ、悪影響を与える微生物も繁殖してしまいます。そのため、通常4日で3回に分けて、蒸米・麹・水などを投入し、これを「3段仕込み」と呼んでいます。原材料の投入が完了すると酵母の働きが活発になり、アルコールとガス(二酸化炭素)を生成し、醪がブクブクと泡立つのです。発酵がほぼ終了すると泡が見られなくなり、そこまでに2週間~1カ月を要します。

◆醸造アルコール
日本酒には「醸造アルコール」を添加するものと、しないものがあります。醪にアルコールを加えるメリットは、香味の調整・防腐効果・コスト軽減などです。また、アルコール添加していないものは「純米酒系」、規定量内のアルコールを添加したものは「本醸造酒系」、そのほかは「普通酒系」に分類されます。

⑦搾り

◆上槽(じょうそう)とは
醪を液体と酒粕に分けるために搾る工程。槽(ふね)と呼ばれる昔ながらの搾り機を使う蔵もあり、布製の酒袋(さかぶくろ)に醪を入れ、槽の中に敷き詰め、上から圧力をかけます。近年は、「自動圧搾機」というアコーディオンの蛇腹部分のような形をした装置に醪を詰め、片側から圧力をかけて搾る機械も一般的。また、「袋吊り(ふくろつり)」という搾り方もあり、酒袋に詰められた醪を槽の中などにぶら下げて、自然にしたたり落ちる液体だけを集める贅沢な手法です。

◆滓引き(おりびき)・ろ過
うっすらと濁った上槽後の液体は、タンクの中でしばらく放置すると、滓(おり)が沈殿します。そのタンクの下部に上下2カ所の取り出し口があり、その上側から酒を抽出する工程が「滓引き」です。さらに細かい滓を除去するために、フィルターを通して「ろ過」します。その後、さらに活性炭素を使用する場合もあります。ろ過して初めて「日本酒(清酒)」と呼べるのです。

◆火入れ(ひいれ)について
ろ過の後、「1回目の火入れ」と呼ばれる低温加熱殺菌が行われます。60~65度で30分ほど加熱することにより、お酒の中に残っている酵素の働きを止め、悪性の乳酸菌も殺菌できます。

⑧貯蔵・瓶詰め

◆貯蔵とは
1回目の火入れ後の日本酒は、瓶詰めされるまでタンクの中で貯蔵されます。適切な温度管理やベストな出荷時期を見極める必要があり、貯蔵により酒質が穏やかになるという利点もあります。

◆調合・割水(わりみず)について
貯蔵されたお酒は、タンクごとに香味が異なるので、蔵および銘柄のコンセプトに合わせて熟練の職人たちが調合(ブレンド)します。また、アルコール度数を15%前後にするために、仕込み水などで調整することもあり、その作業を「割水」といいます。割水していない酒は「原酒(げんしゅ)」と呼ばれます。

◆瓶詰め
貯蔵・調合・割水の間に発生する滓を取り除くために再度ろ過され、瓶に詰める直前、または瓶に詰めた直後に2度目の火入れを行います。ただし、火入れをまったく行わない日本酒、1回だけ行う日本酒もあり、そのスタイルにより名称が異なります。
・生酒  =1回目の火入れ ×、2回目の火入れ ×
・生貯蔵酒=1回目の火入れ ×、2回目の火入れ ○
・生詰め酒=1回目の火入れ ○、2回目の火入れ ×
※生詰め酒(なまづめしゅ)は、春先に1度火入れを行い、タンクで半年ほど貯蔵して秋口に瓶詰めされ、「秋あがり」「冷やおろし」と呼ばれる季節商品になることが多いです。

⑨出荷!

カンパーイ!

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